読み手と企業をつなぐ統合報告書制作のあり方

昨今、企業情報を発信する媒体が多数存在する中で、統合報告書の発行は社内外にどのようなインパクトをもたらすのでしょうか。多様な事業を展開するSMBCグループのIR担当者に、発行の意義やその活用方法について、制作パートナーであるエッジ・インターナショナルの担当者を交えてお話しいただきました。

参加者紹介

佐藤 文香
株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部 IR室 室長代理
松井 悠真
株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部 IR室
黒原 哲也
株式会社エッジ・インターナショナル 専務執行役員
坂本 千佳
株式会社エッジ・インターナショナル PD部門 PD4部


統合報告書で描く現在地と未来図

坂本:弊社は10年ほど制作のご支援を担当させていただいておりますが、2025年度に発行された統合報告書について、改めて対象読者や制作方針をお聞かせいただけますでしょうか。

佐藤:まず対象読者については、機関投資家や個人投資家に限定せず、私たちSMBCグループについて興味を持ったすべての方に手に取っていただきたいと思って制作しています。特に注力しているコンテンツはCEOメッセージと従業員インタビューです。これらを通じて、SMBCグループのビジネスの「手触り感」のようなものが伝わるよう意識しています。

松井:投資家の皆様には、社外取締役座談会[注1]も好評です。社内の人間にとっては少し耳が痛くなるようなご意見をいただくこともありますが、それも含めてそのまま掲載しています。投資家目線に近いご意見を語っていただけるので、非常に重要なコンテンツだと捉えています。

黒原:一歩踏み込んだ内容も掲載されている点が、非常に素晴らしいと感じています。一般的には「良いこと」ばかりを掲載して「悪いこと」は極力掲載しない企業様も多いのですが、御社はバランス良く掲載されています。良いことだけでなく課題や厳しい意見も載せることで、結果として情報の真実性が増し、統合報告書全体の信頼度も高くなるのではないでしょうか。

佐藤:そうですね。統合報告書から少し話は逸れますが、「フェア・ディスクロージャー」も常に意識しています。例えば、投資家説明会等の質疑応答の様子をなるべくそのままホームページで公開するなど、イベントに参加した投資家だけが有利になることのないよう、隠さずにありのままの情報を伝えるという姿勢を大切にしています。

坂本: たとえ厳しいご指摘であったとしても不要に削らず、イベントのありのままの様子をすべての投資家に伝えるということは本当に重要ですね。

左:黒原 哲也 株式会社エッジ・インターナショナル 専務執行役員
右:坂本 千佳 株式会社エッジ・インターナショナル PD部門 PD4部

左:佐藤 文香 株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部 IR室 室長代理
右:松井 悠真 株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部 IR室


従業員インタビューで表現する企業の独自性

坂本:先ほどのお話にも挙がりましたが、御社では2020年ごろから従業員インタビューに注力されている印象があります。そこから現在に至るまで、投資家の方々や社内の皆様からのご感想など、何か変化はありましたでしょうか。

佐藤:投資家の方々から、「CEOやCFOといったトップ層からのメッセージがしっかりと現場にも浸透し、従業員が同じマインドを持って動いていることが分かる」というお褒めの言葉をいただいたこともあり、嬉しく感じています。社内では、統合報告書に取り上げられることが、従業員にとって一種のモチベーションになればいいなと個人的には思っています。実際に知人から「従業員インタビューが面白かった」といった声をもらうこともありますね。

佐藤 文香 株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部 IR室 室長代理

松井:2025年度版の内容にフォーカスすると、リテール事業部門では「Olive(オリーブ)」、ホールセール事業部門では貸出金の伸長やコーポレートアクション、市場事業部門では人材力をテーマに取り上げました。特にホールセール事業部門や市場事業部門の強みは、私たちIR担当者が言葉で説明してもなかなか伝わりづらい部分があります。そこを実際に現場で活躍している担当者に語ってもらうことで、投資家の方々に普段私たちが説明している弊社の強みに対する納得感を高めてもらうことを意識しました。

黒原:毎回面白いお話を聞かせていただいていますが、やはり御社の「Five Values」という企業文化が現場に表れているなと強く感じます。金融機関の戦略自体は似通う部分があっても、最終的なアウトプットの違いを生むのは、やはり「人」だと思います。御社の場合、グループ全体の一体感や連携のスピード感が、「Olive」などの具体的な成功事例につながっているのではないでしょうか。

坂本:確かに、黒原の話にもありましたが、御社の人材の特徴はその「Five Values」にあるように感じます。そういった価値観の浸透は、日頃から意識されているものなのでしょうか。

佐藤:「Five Values」はグループ共通の価値観として位置づけられており、社内イントラでの掲示や人事研修、人事評価などを通じて定期的に意識する機会があることが浸透につながっていると思います。また、新卒採用の際は身近な先輩社員の姿に共感して入社する者も多いので、自然と価値観が共有されているのかもしれません。入社後の集合研修なども、SMBCグループとしての一体感を醸成する一助となっています。

黒原:お互いがフラットな雰囲気である点も御社の特徴ですよね。社長撮影の際などでも、私たちのような制作支援会社の人間に対しても自然に接してくださいますし、そういった空気感が組織全体にあるように思います。

松井:組織としてフラットであると感じる場面はよくあります。例えば、グループ間の連携も積極的で、今回のインタビュー記事作成で取り上げた「キオクシアホールディングス」様の案件を皆で協力して成し遂げていることには強い一体感を感じました。普段なかなか聞けない現場の話を聞けるのは、私たちにとっても良い経験でした。


読みやすさとメッセージ性を兼ね備えた統合報告書

坂本:現場の方々の熱量やグループの一体感を感じられたとのことですが、一方で、2025年度版の制作において課題に感じた点や、2026年度に向けた想いはありますでしょうか。

佐藤:各担当者は自分の所管事項に強いこだわりや想いを持っています。それは非常にありがたいことなのですが、時に統合報告書として伝えたいメッセージと、各担当者が伝えたいことにギャップが生じることもあり、関係者にとって一番良い形でまとめるべく調整に苦心しています。また、事業分野が多岐にわたるため、全体像を掴んでいただきたいという想いと、特定の強みをハイライトしたいという想いのバランスをどう取るのかといった難しさは、一冊にまとめる上で常に感じています。

松井:特に2026年度は新しい中期経営計画が始まりますので、これまでとは違う形で新たなメッセージを打ち出していく必要があります。また、統合報告書自体のページ数を抑える傾向がある中で、読み手を意識していかに伝えたいことに焦点を当てるかも課題です。各事業部門が伝えたいことと、投資家が求めている情報の目線合わせを行うこと、いわば「情報の翻訳」をしていくことが、私たちIR担当のミッションであり、難しいところですね。

黒原:弊社でもよく「統合報告書は資料づくりではなく、メッセージブックとして制作することが重要である」とお伝えしています。情報をただ詰め込むのではなく、読み手を意識して背景までしっかり説明することで、納得感のあるレポートになります。体裁面の話にはなりますが、御社はずっと読み手を意識した、余白やデザインも含めた「読んで疲れない」構成を大切にされており、私たちも作りがいがあります。

松井:そうですね。常に読みやすさは意識して作成しています。ただ、投資家から「分量がやや多い」というご意見をいただくこともありましたので、以前から作成している主要ページに絞ったホームページ上の特設サイトに加え、今回は特に読んでほしい箇所を冒頭でハイライトするなど、すべてに目を通す時間がない方への配慮も工夫しました。今後も投資家のご意見を取り入れながらアップデートしていきたいと考えています。


投資家との対話における統合報告書の位置づけ

坂本:投資家の方々とのコミュニケーションにおいて、統合報告書はどのような役割を担っているのでしょうか。

佐藤:実際の投資家面談では、タイムリーな財務成果の話が中心となることが多く、その場で統合報告書を使って議論することはあまりありません。しかし、弊社のカラーやメッセージを感じていただく媒体として、発行を楽しみに待ってくださっている投資家の方も数多くいらっしゃいます。日々の面談とはまた違った、メッセージを伝える機会として機能していると思います。

松井:普段のIR資料が「財務やタイムリーな戦略」を伝えるものだとすれば、統合報告書はそれを裏付ける「読み物」としての位置づけを意識すべきだと考えています。2026年度は次期中期経営計画の初年度ですので、普段のIRでは語りきれないストーリーを伝える活用の一手にしたいですね。

松井 悠真(株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部 IR室)

黒原:私は統合報告書の制作プロセス自体を、IR担当者様が自社の良さを再発見する機会として活用していただきたいと思っています。担当者様が「うちの会社っていいな」と実感することで、普段のIR活動における言葉の説得力も増すはずです。

佐藤:確かに、実際にインタビューした内容が投資家面談での実例トークに活きることはありました。担当者から直接話を聞いている分、自分でも腹落ちした状態で話せるので、説得力が増していると感じます。

松井: 私もIRの担当になる前は全社の戦略をあまり理解できていませんでしたが、制作を通じて会社への理解が深まりました。普段のIR資料とは別の角度から会社を見るという意味で、非常に勉強になっています。


他媒体と比較した統合報告書の活用戦略

坂本:今後の統合報告書の発行意義や、社内外での活用イメージについてお聞かせください。

佐藤:個別の詳細情報はホームページ等でタイムリーに開示されていますが、統合報告書は年に一度、SMBCグループの全体像やメッセージを「一冊」で伝えられる媒体です。投資家だけでなく、取引先や就職希望者など、弊社に興味を持った方がまず手に取ることで、ビジネスの内容や従業員の想いが伝わるようなものにしていきたいです。社内活用についても、次期中期経営計画のタイミングで整理して考えていきたいですね。

松井: 社内活用は一つの課題ですね。自分が営業現場にいた時に、会社の戦略をもっと理解していれば、営業での動き方も違っただろうと思います。社員が自社の戦略を理解して働くためにも、社内での認知度向上や活用を進めていくことが今後のテーマの一つかなと思います。

左:佐藤 文香 株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部 IR室 室長代理
右:松井 悠真 株式会社三井住友フィナンシャルグループ 企画部 IR室

黒原:お二人の話に共通しますが、統合報告書は「対話のためのツール」であるべきだと思います。情報すべてを詰め込むのではなく、あえて「もう少し知りたい」と思わせるくらいで良いのかもしれません。そこからWebを見たり、対話につなげたりするきっかけになることが大事です。また、従業員は自分の人生という時間を会社に投資している「長期投資家」とも言えます。そうした従業員との対話ツールとしても進化していくと良いですね。

坂本:最後に、これから初めて統合報告書を制作しようとしている企業の担当者様に向けて、何かメッセージやアドバイスがあればお聞かせいただけますでしょうか。

左:黒原 哲也 株式会社エッジ・インターナショナル 専務執行役員
右:坂本 千佳 株式会社エッジ・インターナショナル PD部門 PD4部

佐藤:アドバイスというのはおこがましいですが、私自身、広報や開示業務など様々な立場で情報を発信してきた中で、誰に向けて発信するかで同じ情報でも伝え方が変わると日々実感しています。初めての統合報告書制作にあたっては、どこから手を付けるべきか分からないこともあると思いますが、まずは制作会社の方のアドバイスなどを参考に、「投資家にはこういうコミュニケーションが必要なんだ」という学びを得ながら、一歩ずつ進めていくのが良いのではないでしょうか。

松井:そうですね。やはり一番の読み手は投資家ですので、投資家の声をしっかり聞いて、それを反映していくことが一番の近道だと思います。

坂本:本日は貴重なお話をありがとうございました。今後も読み手を意識した統合報告書が制作できるよう、伴走させていただければと思います。

[注1]詳しくは下記、三井住友フィナンシャルグループWebサイトをご覧ください。
社外取締役座談会: 三井住友フィナンシャルグループ

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