統合報告書で何を届ける?TOTOが目指す企業価値の開示と進化
統合報告書は、財務・非財務の両面から企業価値をストーリーとして整理し、一冊にまとめて伝えることができるコミュニケーションツールです。しかし、その反面ページ数が多く、情報が多岐にわたることで読み手が内容を把握しづらくなるという課題もあります。
今回は、2018年から弊社が統合報告書制作を支援しているTOTO株式会社を訪ね、広報、IR、サステナビリティという3つの部門のご担当者様に、それぞれの視点から見た統合報告書の役割や意義についてお話を伺いました。
参加者紹介
・川原 拓郎
TOTO株式会社 経営企画本部 広報部 部長
・神谷 武則
TOTO株式会社 経営企画本部 経営企画部 IR推進グループ グループリーダー
・高橋 映理子
TOTO株式会社 経営企画本部 サステナビリティ推進部 サステナビリティ推進第一グループ 企画主査
・村上 祐二
株式会社エッジ・インターナショナル PD部門 PD1部 部長
・津田 朋佳
株式会社エッジ・インターナショナル PD部門 PD1部
統合報告書で築く信頼と企業価値
津田:御社は2018年から統合報告書を発行されていますが、発行に至った経緯や、制作を通じて得られた気づきなどがあれば、お聞かせいただけますでしょうか。
川原:弊社の報告書発行におけるターニングポイントは2009年にそれまでのCSRレポートを財務・非財務の両面を語る「コーポレートレポート」に変更したことです。この年の決算(2009年3月期)で262億円を超える当期純損失を計上しましたので、事業継続そのものへの危機感が大きくなっていました。そのような状況下で、「事業そのもので責任を果たせていない中で社会的責任に限定したCSRレポートを発行することに意味があるのか」という社内的な議論がありました。そこでCSRの側面のみならず、事業戦略や財務情報も掲載し会社全体の方向性を示す「コーポレートレポート」を発行することになりました。「コーポレートレポート」を発行するとなると、CSRレポート時代とは違い、複数の部門が連携して制作する体制をとる必要がありました。そこで得られた「社内情報を俯瞰的に把握する視点」や「全社的な情報整理のノウハウ」は、統合報告書を制作する上でも大きな土台となっており、今もその知見は活かされています。2018年からは統合報告書を発行することになり、エッジ・インターナショナル様にお手伝いいただいていますが、2009年以降に積み上げてきた複合的な視点から企業情報を整理・開示し、ステークホルダーの皆様に事業への理解を深めていただくことが結果として信頼の構築や事業の促進にもつながるという考え方は変わっていません。また、統合報告書は、企業の取り組みや経営判断の背景までを含めて一冊で伝えることができる有効なツールだと位置づけています。例えば新製品が完成した際、IR推進グループでは主に決算資料を、広報部ではニュースリリースを通じて情報発信を行います。もちろん、関連する数値情報や機能・性能情報が中心となりますが、統合報告書では「なぜその製品を開発したのか」「解決しようとしている課題は何か」「企業としてどのような価値観に基づいて製品開発を行ったのか」といった背景までを含めて丁寧に伝えることが可能です。
村上:コーポレートレポートで培ったご経験が統合報告書にも活きているのですね。その後実際に統合報告書を発行されてからは、どのような評価や反応がありましたか?
川原:一言で言えば、「TOTOのことがここまでよく分かるツールは他にない」と言っていただけるほど、統合報告書には網羅的な情報を掲載しています。多くの情報を盛り込んでいるのでボリュームはありますが、特に社長メッセージなどは社内外で反響が大きいように感じます。社長自身の考えや弊社の方向性を直接知ることができるため、読者にとって弊社の姿勢や将来のビジョンを深く理解する上で非常に価値のあるページなのではないでしょうか。
村上:なるほど。統合報告書の読み手として主に想定されているのは、やはり機関投資家になるのでしょうか。
川原:そうですね。メインで想定している読み手は機関投資家になりますが、最近では就職活動中に企業研究をする学生やお取引先様に読まれることも増えています。そうした背景を踏まえ、情報の正確性や透明性を担保しながらも、弊社の理念や強みが伝わる、幅広い層にとって価値のある内容を目指しています。特に投資家の方々は、ネガティブな事象が発生した際に、企業がどう捉え、どう対処したかに注目しています。そのため、自社にとって都合の良い情報だけでなく、課題やリスクも含めた率直な開示を大切にし、説明責任を果たすことで信頼を積み重ねていきたいと考えています。

川原 拓郎 TOTO株式会社 経営企画本部 広報部 部長
津田:示唆に富んだお話をありがとうございます。神谷さんと高橋さんは、それぞれの部門の視点から統合報告書の役割や制作する上での難しさについて、どのようにお考えでしょうか。
神谷:私が従事するIR・SRの視点からお話しすると、弊社のエクイティストーリー(企業価値やその要因となるストーリー)を共通価値創造戦略(TOTO WILL2030)の文脈で機関投資家を中心としたステークホルダーの皆様にどう伝えるかを特に意識しています。その中において、新領域事業など弊社の一部の事業内容が投資家に伝わりきっていないことや、事業展開の不調で2024年度から始まった中期経営課題(WILL2030 STAGE2)のシナリオが崩れてしまったことが課題として挙げられます。その対策としては、読者の皆様に具体的な戦略イメージを持っていただくためのトピックスの織り込みや、先ほどの川原の話にも通じますが、なぜ不調になったのか、それに対してどのような施策を講じているのかを明確に示すようにしています。また、今後もROIC経営を展開していく方針を社長メッセージやCFOメッセージなどを通じてしっかり伝えることや、投資家ニーズに対応するだけではなく、グループ社員がTOTOで働くことに誇りや意義を感じ、TOTOへの信頼を一層深めてもらえるような内容づくりも意識してコンテンツを検討しています。
高橋:サステナビリティの観点から言えば、弊社の戦略やマテリアリティに基づき、TOTOの価値創造プロセスへの理解が深まるような形でサステナビリティ情報を掲載したいと考えています。統合報告書では、それらを長期的な価値創造の軸として位置づけ、弊社の活動の背景や意思決定の理由を補強するような役割を果たせるようにしたいと思っています。
統合報告書が社内外に与えるインパクト
村上:私は2018年から御社の統合報告書制作の支援を担当していますが、特にここ数年、統合報告書制作に対する御社の志向性やノウハウがより洗練されてきている印象です。どのような点を意識して、統合報告書に掲載する内容を決めているのでしょうか。
川原:弊社の統合報告書はさまざまな媒体に掲載している情報を集約しているのですが、制作する上で自社の強みを再認識し、それを紙面に落とし込むことを意識しています。CSRのみを意識していたときは、例えば「節水」というテーマを扱う際に、その背景や効果について十分に説明ができていませんでした。しかし統合報告書制作においては同じ「節水」というテーマでも「水使用量が少ないトイレを販売する→普及することで節水になる→環境にやさしく、事業成長にも資する」という一連の流れを示しており、単なる言葉の掲載にとどまらず、読み手が事業の理解度を高められるきっかけになっていると思います。
神谷:統合報告書にはさまざまな情報を掲載するため、各部門との連携は不可欠だと常々感じています。社員の立場からだと「なんでこんな情報を開示するの?」と思うことでも、投資家にとっては非常に重要な場合があるため、該当部門の社員に対して、なぜその開示が必要なのかを丁寧に説明する必要があります。また、統合報告書発行後には投資家からのフィードバックを該当部門に共有することで、社員一丸となって統合報告書をブラッシュアップできる仕組みづくりを進めています。

神谷 武則 TOTO株式会社 経営企画本部 経営企画部 IR推進グループ グループリーダー
高橋:統合報告書制作の時期には、他にも有価証券報告書をはじめとしたさまざまなステークホルダー向けの媒体が同時進行で動いているので、媒体間で掲載内容に齟齬がないか、一貫性が保てているかという点は他部門の担当者と連携しながら注意を払って進めています。細かい作業にはなりますが、こうした作業が弊社の社外における信頼度を高め、他部門の担当者の統合報告書に対する意識の向上にも寄与していると思います。
村上:現場の方々を含め、以前と比較して統合報告書を手に取る方は増えているのでしょうか。
川原:統合報告書全体をじっくり読む方はまだ多くないと思いますが、社長メッセージについては社員も目を通しているケースが多いと感じています。だからこそ、社長メッセージの内容が、社内での発言と一致しており、考えに一貫性がある点も重要です。こうした一貫性を示すことで、企業の信頼性や方向性がより明確に社員に伝わる側面もあると思います。
津田:そういう意味では、統合報告書を社内にそのまま浸透させるというよりも、社員一人ひとりがそこで得られた理解や気づきを社外に発信していくというイメージでしょうか。
川原:そうですね、統合報告書に書かれている内容と、随時発信しているリリースをリンクさせて見てもらいたいと考えています。統合報告書で示した方針や取り組みが、実際に数字としてどのように表れているのかを確認することで、「これは生きている情報なんだ」と感じてもらいたいです。
津田:ありがとうございます。神谷さんと高橋さんは、統合報告書が社内外において果たしている役割について、それぞれのお立場からどうお考えですか。

左:津田 朋佳 株式会社エッジ・インターナショナル PD部門 PD1部
右:村上 祐二 株式会社エッジ・インターナショナル PD部門 PD1部 部長
神谷:正直なところ社内ではIRに関する啓発活動が十分にできておらず、「IR」という言葉自体が浸透していないように感じています。統合報告書に対してハードルを高く感じている社員も多いため、まずは投資家をはじめとしたステークホルダーとのコミュニケーションツールであり、どういった役割を果たしているのかを知ってもらう必要があります。一方、社外に関しては、投資家の方々に面談の際にご活用いただけていると思います。最近はAI分析を使用して情報をまとめて確認される方も多いですが、重要な箇所は統合報告書で読み込んでいただいているようです。株主の皆様はSR面談時に読まれることが多いですが、その前段階から活用できるツールですので、私たち側から統合報告書を各シーンで活用していただけるような働きかけが必要だと考えています。
高橋:具体的な活用場面としては、投資家面談が挙げられます。弊社の考え方やストーリーなど全体像を統合報告書でお伝えし、それに関する詳細なデータはWebサイトで確認していただく形をとっています。その他にもTOTOミュージアム[注1]で統合報告書のページの一部を展示するなど、活用方法は多岐にわたると感じています。

高橋 映理子 TOTO株式会社 経営企画本部 サステナビリティ推進部 サステナビリティ推進第一グループ 企画主査
村上:ありがとうございます。社外に向けた情報発信という点では、先ほどもお話がありましたが、就職活動中の学生が企業のサステナビリティに注目していると伺います。そうした学生が御社の事業内容や社会的取り組みを理解する手段として統合報告書を活用しているケースはあるのでしょうか。
川原:はい、実際に就職活動中の学生が企業研究として統合報告書を活用するケースが増えていると感じています。弊社では会社案内等の冊子を用意していないこともあり、弊社のサステナビリティ領域における取り組みや事業の全体像を知っていただく重要な資料として、統合報告書を活用してくれているのではないでしょうか。また、専門性が高すぎて読みにくいということもなく、学生にも比較的手に取ってもらいやすい内容になっていると思います。
企業の本質と未来を示す統合報告書を目指して
津田:先ほどは社内外での活用方法についてお話を伺いましたが、統合報告書について、今後どのような役割を期待していますか。また、変化を加えていきたい点があればお聞かせください。
川原:統合報告書を読んだときに、弊社の事業が今後の激しい環境変化にも対応できる持続的なものだと感じてもらいたいです。そのためにはやはり「TOTOらしさ」の軸をしっかりと持つことが重要ですし、変えていくところ、変えないところを適切なタイミングで見極めていかなければならないと思います。一方で、課題としては統合報告書のボリュームが大きく、一部のステークホルダーにリーチしにくくなっているところです。情報を盛り込みすぎずにコンパクトにするなど、軸に沿った見せ方の工夫は必要だと思います。
村上:弊社でもAIや動画を活用したコンパクトなサービスが増えてきていることから、軸を維持しつつ、手に取りやすさを意識したアウトプットが必要であるという点に共感します。川原さんがお考えになる統合報告書の目指すべき姿はありますか。

村上 祐二 株式会社エッジ・インターナショナル PD部門 PD1部 部長
川原:やはりTOTOとしてのオリジナリティを統合報告書では表現したいです。各部門の主張や掲載したい情報は正直たくさんあるのですが、全社として何を最も伝えるべきかという軸を意識し、TOTOの事業や価値を一冊で俯瞰できる媒体として位置づけたいと考えています。
村上:サステナビリティとIRの視点からも、今後の統合報告書のあるべき姿について、何かお考えはありますか。
高橋:Webサイトにある情報や数字のデータをそのまま統合報告書に掲載しても、情報量が多く「辞書」のようになってしまいます。統合報告書は財務情報と非財務情報を合わせた読み物として、一貫したストーリーが提示できるようにしていきたいです。
神谷:川原の先ほどの発言と重複しますが、いかにTOTOらしさを保ちつつコンパクトにしていくかが鍵になると思います。それに付随して、統合報告書全体のページの割り振り方にも変革が必要だと考えています。例えば、今までの統合報告書では祖業である住設事業の説明に重点を置いていたため、現状の収益の柱であり、今後も長期成長が期待できるセラミック事業の情報が相対的に薄くなっています。こうした実情をしっかり反映させるために、今後はより他部署と連携しながら、TOTOのエクイティストーリーをご理解いただくための情報をバランス良く盛り込んでいきたいと考えています。
川原:私たちには100年以上にわたり培ってきたノウハウが蓄積されており、それを軸にして事業を展開しています。新しい事業のように思えても、ルーツをたどれば衛生陶器事業という原点があり、現在弊社が展開している事業ともつながりがあります。ただ、弊社の扱う事業は試行錯誤が必要で、花開くまでの道のりが長いという特性があります。そのため、事業ポートフォリオや数字の一時的な結果にこだわらず、将来どういった展開が見込めるのかについて統合報告書でこれまで以上に伝えることができれば、読み手にとって納得感があり、より興味を引く内容にできるのではないかと考えています。

(左から)
川原 拓郎 TOTO株式会社 経営企画本部 広報部 部長
神谷 武則 TOTO株式会社 経営企画本部 経営企画部 IR推進グループ グループリーダー
高橋 映理子 TOTO株式会社 経営企画本部 サステナビリティ推進部 サステナビリティ推進第一グループ 企画主査
津田:貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。普段はコンテンツを作るためのコミュニケーションに寄りがちですが、御社の統合報告書に対する考えや望まれている役割を再認識することができました。引き続き御社の強みを表現できるよう、提案をしていければと思います。本日はお時間いただきありがとうございました。
[注1] 詳しくは下記Webサイトをご覧ください。
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